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All Arounder

第54章 You Asked For It

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ガシャンッ!!




落ちた衝撃で割れた皿は飛散し、中に入っていたコーヒーも飛び散った


それと一緒に、七香も倒れ込む



突然のことで、一瞬思考が止まってしまうが
直ぐに我に返った



「七香ちゃん!!?」



七香の肩を掴むと、すぐさま意識の有無を確認した




「七香ちゃん、七香ちゃん!!
大丈夫か!?」



客からは動揺の眼差しが向けられる

その中のひとつには退斗の顔も見えた



「す…すぃませ…」



苦しそうに瞼を上げる七香


ほっと胸をなでおろす





「病院に行こう」




最近、どこか顔色が優れないとは思っていた


それでも笑顔を崩さない七香に甘え切っていたんだ




「だ、いじょうぶ…ですよ?」



「だめだ!!」





その場にいた客たちには悪かったが

すぐさま店を閉めて七香を病院へ連れて行った





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「―――もって後、一年といったところでしょう」






一年…?




「…一年…ですか」



なんの冗談かと



俺は自分の口元が引きつっていくのがわかった







「マスター…何が一年なんだ?」







退斗がこちらを見ていた


今この子に返事をしたら



俺が崩れ落ちてしまいそうだった






「…退斗…」




退斗の瞳は


強さを感じさせた




拒絶ばかりしている自分とは違って…




「七香ちゃんは…

あと、一年くらいしか、生きられないんだそうだ」




「…」




退斗は黙ったまま


視線を俺から逸らした






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病室のベッドで休ませてもらっていた七香は




体調が落ち着いてきたようだった








待合室で待っていると、うっすらと笑顔をつくって
こちらへ歩いてきた




医師からは、個別で話を聴いたらしい



同じ場にいたなら




俺は七香にどんな表情を向けてしまっていたんだろうか







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