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All Arounder

第54章 You Asked For It




病院での時間は、幼い退斗にとっては非常に長く感じたに違いない


待合室のベンチで退斗は横になって眠ってしまっていた




それを見て、七香は微笑する





「ったく…」


俺はできるだけゆっくりと退斗をおんぶした






会話もないまま、病院の廊下を歩いていく








「マスター…ありがとうございました」



病院を出る際に、七香は弱々しい声で言った




ーーーーーーー七香…






「家でも、無理しないようにな」






ーーー七香…



君を愛しているんだ…








「はい…退斗と…一緒にいてあげようと思います
…マスター…」




ーーー退斗と3人で、一緒に暮らそう





ーーー残りの





時間を?ーーー





「あたしが死んだら…退斗をよろしくお願いします…」




抱きしめたかった


強く

抱きしめたかった



抱きしめられたなら、

いっそそのまま


消えてしまいたかった




泣くものか


彼女が泣かないでいるのに


俺が泣いてどうする





「…っ」

「ななか…」



彼女の名前を先に呼んだのは

退斗だった






「あ…退斗、起きた?」





「うん…」





俺は退斗を背中からおろした



重みも、

ぬくもりも、



一気に俺から剥がれ落ちた感覚だった







手を繋いで帰っていくふたりを

見えなくなるまで見送った





これで、いいんだ



これ以上、七香の負担を増やさないで…




この感情も…


殺してしまおう






俺は





身勝手だ
















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