
All Arounder
第54章 You Asked For It
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それから、どれくらいの時が経ったんだろう
以前までの騒がしい酒場がまるで夢だったかのように
静かで、広くて、寂しい場所で
俺は働いていた
「…」
ザァーーーー
ひどい雨だ
七香ちゃんも、退斗も、
体は大丈夫なんだろうか
2人に会ったのは、
あの病院の日が最後だった
何の連絡もない
こちらから行動に移すことも、しない
ただ静かに、家族での時間を
大切に過ごしてほしい
「…っていうのは、言い訳だよなぁ…」
結局現実と向き合うのが怖い
そんな自分を甘やかしているだけなのだ
「七香ちゃん…」
公園に3人で遊びに行った時のことを思い出す
どんな表情してたっけな
前まで、
あの時の様々な景色を、リアルに思い浮かべることができていた
それも少しずつ
変わっていく
美化されていく
「…」
なんて
寂しいことだろう
カランカラン
「いやーーまたひどい雨ですねマスター!」
「ああ、いらっしゃい」
常連のおじさんだった
「いつものくださいな、
ああ、それにしても本当に物騒だ、聞いてくれよ」
「どうしました?」
キープしてあるおじさんのボトルをカウンターに出し、手際よくコップに注いでいく
「いやそれがさ、ここに来る途中ですごい数のパトカーやら救急車やら、通って行ったんだって」
「へぇ…なんでしょうね」
「いやそれでさ、まぁなんとなく見てたら、近くに止まりだすんだよ」
「近く…」
「そうさ、ちょうど南町んとこの住宅街…」
!!!!
ガタンっ
酒を注ぐ手元が狂った
とっさにテーブルにボトルを置き、
額を流れていく汗を拭う
「あ…」
「どうしたんだい珍しい…」
「いや、すいません…」
七香の顔が
頭に浮かんで離れない
