
All Arounder
第54章 You Asked For It
「でも、なんで急にそんな話を?」
井上の問いかけに、はっと我にかえった
「…いまから話すことは、言い訳でもなんでもない。全てありのままの出来事だ」
マスターの声にも落ち着きが戻った
「戦争で、人殺し。
酒場を開いてから出会った大切な人には、すぐに先立たれた」
「ああ…」
井上も、表情が険しくなった
その脳裏には、幼い頃に七香を汚した男の顔がよぎっている
「何度も思ったよ、
過去の罪の、ツケが、七香ちゃんを失うことで返ってきたんじゃないかってね」
「…」
「ぶっちゃけると、今でもそう思ってる」
「あれはマスターのせいじゃねーだろ」
「…たらればと考えることほど無駄なことはないけど、やはり考えてしまうよ。
いろんな要因が重なる中で、ひとつでも別の行動をとっていたなら、あんな惨劇は起こらなかったかもしれないって」
換気扇の音が
いつもよりうるさく聞こえた
「まぁ、そんな感じでモヤモヤと悩みを抱えたまま、あの時俺は淳司と同じ空間にいたわけだ」
話を戻すと
マスターが淳司の家に赴き、ソファーに腰掛けながら取り止めのない話をしている時だった
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