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All Arounder

第54章 You Asked For It

ーーーーー


淳司が、亡くした妻のことを語って
寂しげな表情を見せたことで




「俺も…」




目頭が熱を帯びていくのを感じた






「…愛した人は…



死んだ…」





「…」






「もうずーっと前の話になるのに…

俺はお前みたいに、立ち直れない…」




待っていた


何日も

何カ月も

何年も


あの店にいれば、

扉を開けて笑顔を向けてくれる君が帰ってきてくれると思って


待っていた


けれどやはり、

ただの一度も

君が扉を開けてくれることはなかった





「…だから夢にも出てくるんだ」





ぽつぽつと

庭に目を向けると雨が降ってきていた




「夢に、彼女の死んだときの姿が…



裸で

頭を撃ち抜かれて

ボロボロの体で横たわっている姿が…夢に…」




ああ…

大切だった


本当に大切な人だった…



彼女のことを言葉に出すと


自分の気持ちが明確になった







「たった、ひと言…

愛してると伝えておけばよかったと…」




ーーーー退斗と3人で暮らそう




たったそれだけ


言える勇気が


俺にはなかった








「ど、れだけ悔やんでも…

な…七香はっ…

帰ってこなぃ…」






人生でただひとり、

愛した人…




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