一万回目のプロポーズ
第12章 思い出
エスカレーターを上り切ると、空が開けていた
踏み締めた地面は木で出来ていて、ギシギシと軽い音を立てる
『海…見えたっ』
「だろ?」
前に進んでいくと
細く水平に伸びていた海が
どんどん縦に体を広げていった
一番端まで行き着き、手すりにもたれ掛かる
風が運ぶ塩辛い空気が、時折強く髪を撫でた
『俊司、知ってたの?展望台のこと…』
「昔、家族旅行で来たんだ。あの時は雨だったけどさ」
『へぇ…』
俊司から目を逸らし、もう一度、自分を海でいっぱいにした
あたしが飛び込んでいるのか
海があたしを包み込んでくれるのかはわからない
それでも、離れているとは感じなかった