憾み その7

連載中

[作品説明]

 やがてさり気ない席変えが始まる。
「望ちゃん何飲む?」「どんな映画が好きなの?」。男達が早稲田に話し掛けて行く。羨ましい光景だが、こっちには何の手立ても、なし。
 もどかしさから貧乏揺すりが激しさを増していた時、舞田から声を掛けられ、一旦外に出た。
「お前望ちゃんと喋りたいんだろ?」
「別に……」
 目一杯しらを切った。
「嘘付け! さっきからチラ見ばっかしてんじゃねえか」
「……その通りだよ」
 そこまで目が行き届いている人には、しらは切り通せませぬ……。
「オレあいつ(早稲田の隣に座る男)呼び出して席立たせるから。その隙に望ちゃんの隣に座れ」
「どうやって?」
「さり気なくだよ」
 舞田はじれったそうに言う。
「「何飲んでるの?」とか「隣良い?」とか言って。分かったな?」
 舞田はオレの肩を『ポンッ!』と強めに叩いて、中に入って行った。舞田は早速実行に移し、友達に何やら耳打ちすると2人は出入口に向かった。出て行く時、舞田は「行け!」とアイコンタクトした。
 さてどうするかと思っていた時、運良くまた早稲田と目が合った。これを逃しちゃ駄目だ。意を決して立ち上がり、早稲田の隣へ回った。
「隣良いですか?」
「私は良いですけど、人がいますよ?」
「向かい合わせじゃ聞き取り難いですから」
 適当に誤魔化してさっさと座った。
「あの、苗字訊いて良いですか?」
性格上、いきなり「望ちゃん」と呼ぶのは憚られた。
「早稲田です」
「あの大学と同じですか? 由緒正しそうな名前ですね」
「そんな事ないですよ。大学とは何の関係もないですから」
 苦笑された。よく言われるのかもしれない。

[タグ]

[レビュー]

[この作者のほかの作品]

ストーリーメニュー

TOPTOPへ