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雪の華~Memories~【彼氏いない歴31年の私】

第4章 LessonⅣ 忍ぶれど

 そのはるかな視線はかなり長い間、祭壇の上のキリスト像の辺りを漂っているようにも見えた。
 やがて、緊張を孕んだ静寂は、聡自身の声によって終わりを告げた。
「そうだね。今度は俺が輝さんに自分について話す番みたいだな」
 聡は意を決した面持ちで、視線を輝に戻した。既にその双眸はいつものように深く澄んだ湖、或いは底の知れない宇宙のように掴みどころがなく、それでいて限りない穏やかさを湛えている。
「昨日、君に話したよね。離婚のことは」
 念を押すように問われ、輝は頷いた。
「ええ、聞いたわ。脱サラした聡さんが喫茶店を開く夢を持っていたという話だったと思うけど。それで奥さまがその夢についてゆけないからって、離婚したって」

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