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雪の華~Memories~【彼氏いない歴31年の私】

第4章 LessonⅣ 忍ぶれど

「違うんだ」
「え?」
 輝は弾かれたように面を上げ、聡を見つめた。
「君が理解しているのと真実は少し違う。あれがすべてじゃない」
「それは―どういうこと?」
 フと聡が微笑った。哀しみを湛えた微笑みに、輝の心までもが軋む。
 聡はそれまで立てていた長い脚を床に投げ出し、ぐっと身を乗り出して膝に肘をつく。身体の前で、両手をきつく握りしめる。ふさわしい言葉を探しているようでもある。
 とうに癒えたと自分では信じ込んでいた傷口を、もう一度開きたくはないのだ。その出来事が彼にどれほどの打撃を与えたかを想像して、輝は胸がツキリと痛んだ。

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