テキストサイズ

雪の華~Memories~【彼氏いない歴31年の私】

第4章 LessonⅣ 忍ぶれど

 聡の妻という立場にいながら、彼女は二十年前に別れた恋人を忘れていなかった。彼女の眼に映っていたのは聡ではなく、彼女を棄てて去っていった薄情な恋人だったのだ。
「まったく、とんだ道化役だったな」
 聡は自分を嘲笑うかのように嗤った。
 恐らく、彼を徹底的に打ちのめしたのは、妻が最後に投げたひとことだったに違いない。二十年という年月は、けして短くはない。その長い年月、来る日も来る日も、妻がまったく違う他人のことを恋いながら夫である自分の側で生きてきたと知ったときの哀しみと衝撃は察するに余りある。
「妻が去った後、色々と自分なりに考えたよ。一体、自分の何がいけなかったのか。子どもができなかったのが良くなかった? いや、子どもができなくても夫婦で寄り添って生きているカップルはたくさんある。じゃあ、やはり妻の言うように、俺が仕事に夢中で妻のことを顧みてやらなかったから?」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ