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雪の華~Memories~【彼氏いない歴31年の私】

第4章 LessonⅣ 忍ぶれど

「もう、止めて」
 輝の声が震えた。
「聡さん、それは聡さんが悪いのではないと思うわ」
 多分、二十年前、ただ淋しさを理由に聡の妻が彼に縋り付いたその瞬間から、この夫婦の運命は決まっていたのだろう。その場の孤独を埋めるためだけに、聡の妻は彼を求め、聡はそれを愛情だと勘違いしてしまった。
 それを誰が責められるだろう?
「聡さんはもう十分に悩んで傷ついたでしょう。人の気持ちは歳月でも変えられない。それは誰が悪いというわけでもないし、考えたからといって、どうにかなるものではないと思う。だから、もう自分を責めないで、これ以上、追い込まないで」
「輝さん―」
 聡の眼が揺れている。その奥底に揺らめく哀しみが愛おしかった。

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