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雪の華~Memories~【彼氏いない歴31年の私】

第4章 LessonⅣ 忍ぶれど

 大好きな聡の匂いに包まれているのは、とても幸福だ。
「風邪を引くといけないから」
 傍らの聡がコートについたフードを輝の頭におもむろにかぶせた。そのときだった。
 ふっと振り向いた輝は息を呑んだ。
 少し後方に佇む小さな教会は屋根に薄く雪を頂き、ひそやかに雪の中に建っている。既に積もり始めた雪が淡く発光し、闇の中でも教会はそこだけが浮かび上がっているように見えた。
 この光景は確かにどこかで見たような―。
 どこで見たのだろうと懸命に記憶を手繰り寄せている中に、パズルのピースがピタリとおさまるように閃いたものがあった。
「夢だわ」
 唐突に叫んだ輝に、聡が愕いている。
「どうしたんだ?」
「夢よ」
 輝は興奮して頬を紅潮させた。

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