テキストサイズ

雪の華~Memories~【彼氏いない歴31年の私】

第2章 LessonⅡ 心ときめく記念日

 彼の妻は知っているのだろうか。いまでも別れた妻を〝あいつ〟と呼ぶときの吉瀬の口調がこんなにも切ないものであることを。
 予期せぬ告白と真実に少なからぬ衝撃を受けている輝に、吉瀬は淡々と言う。
「自分の嫁さんが何を考えてるか判らないなんて、ホント、バカな男ですよ、俺は」
 軽い自分への嘲りが潜んでいる言葉に、思わず輝は叫んでいた。
「そんなこと、ありません」
 吉瀬が愕いたように輝を見る。
「私だったら、絶対にそんなことはしません。素敵な夢じゃないですか。それは一から始めるのは大変かもしれませんけど、思い切ったことって、何かの大きな踏ん切りがなければ、できないものですよ」
 ややあって、吉瀬が淋しげに笑った。
「女房がそんな風に考えてくれたら良かったんですがね」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ