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契り

第1章 居候

「んっ!これ、美味いな。この、フワフワのが、特にうまい」

初めの一口だけフォークで食べてから、残りを手づかみで一口でケーキを食べ、最後に指を舐めている鬼がおもしろかった。

癒された。

カッコよく思えた。

そして、嬉しい。

こみあげてくる感情で目頭が熱くなってきたから、笑った。

ここは、泣くところじゃない。

笑えばいいんだ。

嬉しいんだから。
楽しいんだから。

一人ぼっちの誕生日じゃない。
19歳で初めて、誰かに祝ってもらってる?んだ。

そして、泣けてくる。
嬉しい。

1人じゃない。
祝ってくれる人?鬼が居る。

「なるみ…お前は、あの日も泣いていた。誕生日なのに家に誰も居ないって。祝ってくれないって」

鬼に頭を撫でられた。

「こうやったら、なるみは笑ってくれた、ありがとう。って」

「…鬼?」

「あのときも、首を横にしてた」

だからね…耳打ちをすると頬にキスをされた。

「だから、こうしてキスをした」

真剣な鬼の表情に引き込まれた。

キスをされたことを咎めようとしたのに、不法侵入のように家の中に入って来たことを怒ろうとしたのに、出来なくなった。

僕は、この感覚を知ってる。

約束は思い出せないけど、多分きっとこの鬼のことを知っている。

「名前…なんだっけ?」

取り敢えず、これを確認。

「紫楼(しろう)」

心が、穏やかになった感覚がある。騙されているのかもしれないけど、鬼の紫楼を突き放す気にはなれない。

不思議な感覚だ。


鬼がテーブルにあった紙とボールペンで字を書いた。

紫と桜の字。

「しろう。紫の桜。覚えろよ」

紫楼が笑った。

落ち着く。
心が和む。

僕も、つられて笑った。

良い奴だから。

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