愛して、愛されて。
第9章 狂気の矛先
意を決して、ドアノブを回した。出来るだけ明るく、何もなかったような声色を意識して、
「恭。」
と名前を呼んだ俺の目に入ったのは、誰もいない俺の部屋と、綺麗に整頓されたベットだった。
「ははっ、、、!」
乾いた笑いが唇からこぼれ、俺は力が抜けたようにペタリと床に座り込む。暖かい水のようなものが、俺の頬を濡らし始めたのが分かった。
泣きたくない。だけど、涙が止まらない。
恭は俺になにも言わず、この家から出ていったのだ。いつ出ていったのかなんてわからない。
それが意味するものが頭に浮かび、俺はただ涙を流すしかなかった。
恭はもう俺と喋りたくなかったから、なにも言わずに出ていったのだろう。
それが意味するもの。間違いなく、拒絶だ。
「うっ、、きょ、お!、、んっ」
誰もいない部屋に、俺の情けない声だけが響いた。
ああ、大切なものを失う痛みってこんなにも辛いものなのか。
胸に空いた穴が、大きく広がった気がした。
どうして。なんでだよ、恭。そんなに気持ち悪かったのだろうか。俺と兄さんの関係が。
大切なものがいとも簡単に消えてしまった恐怖で、ガタガタと震える体を両手で抱きしめた。