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愛して、愛されて。

第9章 狂気の矛先



ガラリとドアを開ける。保健室には誰もいなくて、それが逆に安心した。

今は一人になりたかった。保健室のベットに体を投げ出し、枕に顔を埋める。

今までの恭との思い出が頭に浮かんで、それが俺の涙を余計に誘った。

「うっ、、、ふ、うっ、、!」

声を抑えようと必死に枕に顔を押し付けながら泣いた。教室にはもう戻る気力がなくて、俺は小さく体を丸める。


このまま眠ってしまおうと、目を閉じた。
兄さんの顔が浮かび、俺に優しい笑顔を向ける。胸がギュッと締め付けられた気がして、自分が分からなくなった。


兄さんに会いたいと思うのはどうしてだろう。恭に拒絶されたら、今度はあんなに否定していた兄さんに縋りたくなった?

俺、最低だ、、、。


そう思っても、やっぱり兄さんの顔が頭から離れなくて。

自分の気持ちの変化に戸惑いながら、俺は意識を手放した。




『奏太』

どこかで、恭の声がした気がした。だけどそれは兄さんの声のような気もして、俺は静かに手を伸ばした。

届きそうで届かなくなってしまったその声は、闇の中に消えていき、

もう聞こえてくることはなかった。





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