愛して、愛されて。
第9章 狂気の矛先
伊勢谷先生を警戒することは、恭に言われてから何度かあった。その度に的外れで終わるのだが、今は状況が状況だ。
誰もいない放課後の保健室に、伊勢谷先生と2人きりなんて、だいぶ気が引けてしまう。
それに、伊勢谷先生との関わりなんて俺にはあまりなくて、どうして伊勢谷がここにいるのかが分からなかった。
強まる警戒心。だけどそれは、伊勢谷先生の次の言葉でいつものように綺麗さっぱりなくなってしまった。
「今日の朝から村尾の顔色があまりよくなかったから、心配だったんだよ。大丈夫かい?」
そう笑った伊勢谷先生に、俺はハッとして慌てて首を振った。
「だ、大丈夫です。」
「そっか。それならいいんだよ。」
綺麗な笑顔を浮かべる伊勢谷先生には、もうさっきのような違和感は感じられなくて、俺はホッと息をつく。
警戒心から開放され、体の力が抜けるのを感じた。心配して見に来たのだという伊勢谷先生に、小さく笑顔を向けてお礼を言う。
伊勢谷先生はまたにっこりと笑ったあと、ゆっくりと口を開いた。