愛して、愛されて。
第3章 日常と、
「村尾。」
「…っ…―!?」
後ろから名前を呼ばれ、何故か背中に寒気が走った。
ゾクリ、と身震いをした後に、恐る恐る振り返ると、
「…伊勢谷センセ?」
「そうだよ。」
そこには、いつも通り眼鏡をかけ、優しく微笑む伊勢谷先生がいた。
…びっくりした。
気配、なかったし。
そう思いながらも、伊勢谷先生に笑顔を向ける。
そんな俺を見て、彼も目を細めて笑った。
その笑顔に、今まで感じなかった何かを感じた。
恐れ、戸惑い…
いや、違う。
“疑い”だ。
学食で、恭に言われた言葉を思い出す。
人間、信じていないことでも、人から言われれば、多少気になるもので。
伊勢谷先生を、初めて警戒した。
恭が言っていたような馬鹿なことは無いとは思うが、
恭に言われたのだから。
少し、気をつけなければならないのかもしれない。