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血とキズナ

第1章 約束のカギ

 あいつは――明日斗は、ケンカ三昧の完全なる不良生活を送っていたくせに、暴走族や群れている奴らが嫌いだった。

 もちろん自分も群れるのが嫌いで、リツや、数人の連れとしかつるまない奴だった。

 身内には無防備なほどオープンで気さくな奴なのに、知らない奴には別人のように敵意をむき出しにする。

 まるで気難しい猫みたいな奴だった。


「そんで東条に、『弱い奴に“カシ”を断る権利はない』って言われたって。

 あいつのことだ、めちゃくちゃ悔しかったと思う。
 だから俺が代わりにそのカリ返そうかなって」


 リツの中学の成績は、決して悪くはなかった。
 中堅どころの公立校にだって、入れていただろう。

 現に、リツは明日斗が死ぬまで、霧金など選択肢にも入っていなかった。

 そして、霧金を受けると決めてからは、生活環境ががらりと変わることになった。

 それでも、リツは迷わなかった。

 もちろん後悔もない。

 俺はここで生きていく。


 リツは個室を出た。

 すると後ろから佐山が追ってくる。


「綾野、お前って変わってんな」

「そうか?」

「そうだよ。
 ――なあ、下の名前は?」

「俺? 立」

「リツ。じゃあさ、お前のことこれからリツって呼ぶから、俺のことはシュンて呼んでくれよ。
 俺、佐山俊介ってんだ、よろしくな」

「ああ、よろしく、佐山」


 肘で小突かれた。

 今から入学式に行くのも面倒で、リツは佐山と、教室に戻っていった。


 

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