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血とキズナ

第5章 路地裏の青天

「どういうことだ。いつ誘われた」

「今朝、下駄箱で」


 松根がリツを誘ったのは、鴇津が下駄箱に消えた一瞬のすきだった。

 鴇津はリツをじっと睨みつける。
 しかしリツは、悪気など全くない瞳でその眼光を受け止めた。

 そんな様子を、佐山はおろおろしながら見つめるのだった。

 そして少しすると、鴇津がすっと視線を外し、なにも言わず教室から去っていった。


「なんか、怒ってた?」


 リツは、首を傾げながら佐山を見る。


「わ、わからん……こわかった」

「佐山ってさ、鴇津さんのこと怖がりすぎじゃない?」

「恐いよ! 恐いじゃん!」

「そうかな」

「おまえは鈍すぎる!」


 佐山や他の人間が、鴇津をそれほど怖がる理由が、リツにはわからなかった。

 たしかに、威圧感はあるし眼光も鋭く怖い雰囲気はあるが、リツにとってはそれだけだった。


「じゃ、行くな」

「おう、くれぐれも気をつけろよ」

「へいへい。――あれ、島田がいない」


 後ろの席を振り返れば、ユウゴの席はすでにもぬけの殻になっていた。


「ほーら。あんま信用すんなよ」


 リツはため息をつき教室を出た。

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