血とキズナ
第5章 路地裏の青天
「トキツさんのおかげで、オレはふつうの生活ができるようになったんす。
だからオレは、一生トキツさんについて行くって決めたんです」
「へえ。そんなことがあったんか」
松根が思い出したように、ステーキを食べだした。
「でも、アイツも、人のためになんかすることがあんだな」
「そうすっよ。トキツさん、ホントはメチャやさしいんすよ。 男気あって、クールでケンカ強くて男前で、オレの憧れの男像っす」
リツも、進んでいなかったハンバーグに手をつける。
ユウゴが、あれほど鴇津を敬愛している理由。それがわかった。
ユウゴも鴇津も、一言では片づけられない過去を持っていた。
そんな愛の欠片もないようなところで育ったのだとしたら、人なんか信じるわけがない。
「なあ」
リツは、ユウゴに声をかけた。
ユウゴはパスタを頬ばりながら、リツのほうを向く。
「鴇津さんて、いつからその施設で暮らしてたんだ?」
ユウゴは嫌な顔をした。
しかし不満げだが、ユウゴは教えてくれた。
「生まれてすぐ、その施設の前に置き去りにされてたらしい。
だから、本当の親も本当の誕生日も、知らないんだってさ」
「ふうん。そっか」
ぞわっと、胸に何か苦いものが広がった。
鴇津の孤独の端に、一瞬触れた気がした。