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血とキズナ

第5章 路地裏の青天

 自分のルーツがまったくわからないというのは、本当に怖いと思う。

 リツにも似た経験があるが、鴇津の過去はその比ではない。

 自分がわからず、親代わりのはずだった施設の大人には、否定しかされない。

 自分が、いていいという理由が、存在しない。

 そんな日常を強いられて、ひねくれないほうがおかしかった。

 鴇津の根っこのようなものに少し触れた気がした。

 自分が存在していい理由がなく、生きる理由も死ぬ理由もなくて、自分を持てあましている。

 鴇津が無理なケンカをする理由が、なんとなくわかった。


 存在理由のない自分。

 汚い大人。

 愛にまみれた外の世界。

 なにもない自分。

 なにもかもをぶっ壊したい、破壊的衝動。


 知っている。その感覚――。

 鴇津の輪郭がうっすらとつかめて、うれしいと思った反面、聞かなければよかったのではないかと、少し後悔もした。

 鴇津から、直接聞きたかった。

 ステーキを食べながら、松根と土井が話し出す。


「鴇津もキレたりするんだな。俺、スカした顔しか見たことないぜ」

「俺、一回アイツがケンカしてっとこ見たんだけどよ、微妙に笑ってんだよ。
 あんときゃ鳥肌立ったな」

「正直、アイツ怖えよな。何するかわかんねえ感じが」

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