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血とキズナ

第5章 路地裏の青天

 そして、その背中が躊躇なく空き地へと走っていく様子を、黙って見送る。

 ――そうだ、行け。
 ――殴れ。蹴れ。

 ――そしてヤられればいい。


 九鬼は、血にまみれるリツの姿を想像するだけで、興奮した。

 初めて廊下で会ったときからそうだった。

 血の奥に浮かんでいた眼を見た瞬間、電流が体を駆け巡った。

 怒り。憎しみ。

 諦め。絶望。

 無力感。

 そんな負の感情をぐちゃぐちゃにかき混ぜたような真っ黒い塊が、その瞳の奥にあった。

 そんな瞳が、九鬼は大好物であった。

 美男子の悲壮感ほど、九鬼の加虐心を刺激するものはない。

 しかしリツに感じたのは、悲壮だけではなかった。

 それに負けない、――いや、呑まれないほどの光もまた、リツの瞳からは感じた。

 闇に呑まれないように、闇にフタをするように、健気だが力強い意志がリツの瞳からは溢れていた。

 その光を、完膚なきまでに引き剥がし、抉り出したら、きっとリツは真っ黒い塊の中に堕ちていくだろう。

 その瞬間の顔がみたい。

 九鬼の願いはそれだけであった。

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