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血とキズナ

第5章 路地裏の青天

「最近大人しくしてると思ったらこれか。
 あれか、リツがいないからか?」

「なんでアイツが出てくんだよ」


 鴇津は不満げに眉を寄せた。


「最近仲良くしてただろ、柄にもなく」

「別に、ただの気まぐれだ」

「ま、そんなこたーどうでもいいだけど」


 鴇津は眉をぴくりと動かす。

 コイツのこういうところが、鴇津は気に食わなかった。
 のらりくらりと、何を考えているのかわからない。

 人の考えを勝手に見抜いた上で、わざと逆撫でするようなことを言う。
 いちいち相手にしてなどいられない。


「不思議な奴だなアイツは。
 さっきも松根たちと北高の奴らから楽しそうに逃げてたぞ。
 あのケンカバカが逃げるなんてな」

「黙って見ててよかったのか?」

「あ? なんで」

「助けなくていいんだろ。勝手なことさせてていいのかよ」

「別に、助けるなとは言ってねえからな。好きにすればいいさ」


 鴇津は煙草を取り出した。
 口にくわえ、火をつける。

 煙が空へ昇っていく。

 やはりその空はくすんで見えた。

 佇む鴇津に、東条は静かな足取りで近づく。


「お前も、好きにすればいいさ」

「あ?」


 東条が鴇津の肩に手を置いた。


「リツと。
 好きにつきあっていけばいいさ」


 するりと鴇津の横を通り過ぎていく。


「どういう意味だ」


 去りゆく東条を、鴇津の声が追いかける。
 振り向いた東条は、不敵に笑っていた。


「別にー」


 キザな笑みを残し、東条は三上をつれて大通りのほうへと去っていった。

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