テキストサイズ

血とキズナ

第6章 昔の俺と、今の君

 
「いいから乗れ。帰るぞ」


 鴇津がリアシートを示す。
 しかしリツの顔は浮かなかった。


「ごめん。せっかくだけどいいや。電車で帰る」


 鴇津の横を通り過ぎようとするが、肩を叩かれ止められた。


「なんでだよ。交通費浮くし、電車より早く着く。断る理由ねえだろ」


 リツは鴇津の手を払うが、しかしそれに拒絶の意は感じられず、ただ難しそうな顔を浮かべていた。


「なんだよ。俺と乗るのが嫌か」

「違う。俺の勝手な理由」

「どんな理由だ」


 脅すように鴇津は詰め寄った。
 理由によっちゃ、無理やり乗せる気満々である。

 しかしリツは脅しに屈したようではなく、ぽつぽつと言葉を発しだした。


「なんつうか、バイク見ると嫌なこと思い出すっつうか」

「あ?」

「ちょっと、泣きそうになる」

「はぁ?」


 バイク自体が嫌いなわけじゃない。
 乗っている人が嫌いというわけでもない。

 ただバイクを見ると、どうしても明日斗を思い出す。

 それがどうも嫌なのだ。

 多分、人の後ろに乗ってしまったら、もっといろいろ思い出す。

 こうしている今も、思い出しそうでヒヤヒヤしているのだ。


「だからごめん」


 リツは逃げるように、鴇津を――というよりバイクを後にした。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ