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血とキズナ

第6章 昔の俺と、今の君

 もう二度とない。

 明日斗はいなくなって、明日斗の周りにいた奴らも散り散りにどこかへ消えた。

 もう二度とこない、人生の最高だった瞬間。

 ――ああ、やっぱり乗りたくなかったな。

 ぎゅっと、急に胸が苦しくなってきた。

 明日斗は、生きていくための道標で、支えだった。
 明日斗がいれさえすれば、一生生きていけると思った。

 家族なんかいなくたって、金なんかなくたって、ふたりなら何とかなると思っていた。

 明日斗がいれば、――カギさえ持っていれば、これの示すほうに歩いていけば、俺は生きていける。

 じゃあ、カギを返した後は?

 俺はどこにいけばいい?



「とりあえず」


 心地のよいぬるま湯のような声が、誰もいない森に流れる。


「それ飲めよ。冷えちまうぞ」


 よく見れば、視線の先にココアを握りしめる自分の手があった。

 急に、胸の奥の暗いものが晴れた。


「おうやべぇ、せっかくのホットが」


 ぷしゅっと盛大に蓋を開けて、缶を思いきり煽る。


「帰り、大丈夫か」

「帰り? ああ、平気平気。つかここどこ?」

「山梨の県境辺り」

「山梨!? 今日中に帰れる?」

 焦るリツとは裏腹に、鴇津はポケットに手なんかを突っ込んで、のん気に言った。


「まあ――太陽が出てくる前には着くだろ」


 「えぇ……」とリツは力が抜けた。
 残ったココアをちびっと口へ運んだ。

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