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血とキズナ

第6章 昔の俺と、今の君

「何にやけてんだよ。大丈夫か」

「なんか、うれしいなって」

「は?」


 今の流れだと、蹴られてうれしいという風にもとれる。
 鴇津が可哀相な顔でリツを見ていた。


「鴇津さんて、ユウゴのことどう思ってんの?」

「あ? なんだよそりゃ」

「ずっと慕われたんでしょ? 今まで、なんで放っといたの」


 鴇津は眉を寄せ、言いづらそうに視線をリツからずらした。


「一人が、楽なんだよ。慕われたって、面倒なだけだ」


 皆がそれぞれ保健室の中でバカ騒ぎする中、鴇津の声は、一番小さな声だった。

 気をつけていないと聞き取れないほどのボリュームだったが、リツは必死に聞き耳を立てた。

 そして自分も、小さな声で鴇津に訊ねる。


「でも、ユウゴのために施設の先生、刺したんでしょ?」


 わかりやすく、鴇津はぎょっとした。
 鴇津の珍しい表情に、リツはふくみ笑いした。


「ごめん、島田に聞いた。あ、怒んないでやって。俺らが無理に聞いたんだ」

「俺らって」

「松根さんと土井さんも知ってる」


 怒られるかもなと思った。

 こんな内情的なこと、自分の見知らないところで話されていたらいい気はしない。

 もしかしたら、軽蔑されるかもしれない。
 こんな風に、話してくれなくなるかもしれない。

 それでも、黙っていたくはなかった。

 なんとなく鴇津を裏切っているようで、この話を聞いたときからずっと、喉の奥の小骨のように引っかかっていた。

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