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血とキズナ

第6章 昔の俺と、今の君

 鴇津は深くため息をついた。
 その横顔は無表情で感情は読み取れないが、眉間に皺はなく、切れ長な目もつり上がってはいなかった。


「どうでもいい奴のために人なんか刺さないでしょ」


 リツは遠慮なく鴇津に問いかけた。


「何とも思わなかったのか」

「ん?」


 疑問詞に返ってきたのは、疑問文だった。


「その話聞いてお前は――」


 鴇津の言葉はそこで止まった。
 何か考えているようだったが、どれだけたっても言葉は続かなかった。


「だから、なんでそうまでして助けた島田を放っといたのかなって」

「それだけか」

「それだけ」


 鴇津は、豆鉄砲を食らったハトのような顔でリツの顔を窺うと、再び長いため息を吐いて肩を落とした。


「ふつうさ、その前にビビったり引いたりすんじゃねえの。そういう時ってよ」

「なんで?
 そんなムカつく奴、誰だって刺したくなるよ」

「思うのと実際やっちまうのは全然違うだろ」


 鴇津の言葉に、リツは思わず笑ってしまった。


「――なんだよ」


 眉間に皺の寄った顔が睨んできたので、リツはごめんごめんと鴇津に謝った。


「いや、それとおんなじようなこと言ってた奴がいたなぁと思って」


 鴇津の頭上に疑問符が浮かぶ。 


「俺も、人切りつけたことあるから、そん時の気持ちはわかるかなーって。勝手に思ってる」


 そう言うと、鴇津の瞳がこれでもかってほどに広がり、初めて見る鴇津の円らな瞳に、一度は押さえ込んだ笑いが、吹き出してしまった。

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