血とキズナ
第6章 昔の俺と、今の君
「あははは、何その顔! なんか可愛いよ?」
思わず出てしまった大声に、周りの目が一斉にリツを捉える。
さらにリツの吐いた台詞に皆凝然としていた。
この地域で歴代最強と謳われるチームで、さらにその中でも異質で特別な扱いを受ける、この畏怖の象徴のような男に向かい、よりにもよって可愛いなどと言い放つリツに、周りの猛者どもも絶句だった。
リツの笑い声だけが響く一瞬の静寂の後、そこら中でざわざわと動揺が広まる。
「可愛いってッ、可愛いってナニ!?」
「何アイツ、そこまで鴇津と仲良いんか!?」
「つか、鴇津さん呆けてね!?」
「鴇津を手玉に取ってやがる」
「アイツって何モン!?」
そんな囁きなどに気付きもせず、リツは「ヤベぇっ、ツボ入った」などと笑い続けている。
しかし鴇津のほうは皆の視線に気付き、肉食獣のような睨みを利かすとリツからそっぽを向くように窓枠に頬杖をついた。
そのひと睨みにビビった猛者たちも一斉にリツや鴇津から視線をずらし、各々に昼食を再開した。
「トキツさん、買ってきました!」
そんなタイミングで帰ってきたユウゴの手には、鴇津の缶コーヒーと、自分の分であろうサイダーが握られている。
「はい。どうぞ」
鴇津のところまで一直線にやってきたユウゴの手から、コーヒーが差し出される。
「おう」
不機嫌も相まってか、鴇津の声は若干低めのものになった。
しかしユウゴは気にしていないようで、その顔はおつかいを褒められた幼児のように笑顔を咲かせている。
「あれ、俺のココアは?」
その笑顔も、リツの一言で一瞬に消え去る。
「知らねぇよ」
鴇津に負けず劣らずの低音が、床を這うように発せられる。