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血とキズナ

第6章 昔の俺と、今の君

 松根や土井は素知らぬ顔でパンをかじり、鴇津も窓枠に肘をつき、外を眺めている。

 佐山にいたっては、今にも泣き出しそうな顔でキョドっていた。


「ちぇ、遠藤先生冷てーの」


 しかしそんな空気でも、リツの能天気さは変わらない。

 リツの声に、男たちの動きが止まる。


「まあ確かに、今病人が来たら入りづらいわな。

 鴇津さん、どっか別のとこ行こうよ。さすがに俺も狭いと思ってたし」


 リツはまだ開けていないパンやおにぎりを鞄に詰めながら言った。


「んじゃ先生、今までありがとね。――佐山、行こうぜ」

「お、おうっ」


 佐山が勢いよく立ち上がるが、その動きはギクシャクしていて、リツは思わず吹き出した。


「何その動き。狙ってんの?」

「ね、狙ってないわいっ!
 大体っ、誰のせいでこんなことになったと……」

「え、そのカコカコ動きは俺のせいなの?」

「そうだよ、全てお前のせいだ」


 佐山に文句を言われながら、リツは保健室を出て行った。

 そしてそれを追うように、鞄を担いだ鴇津も、ユウゴにもらったコーヒーを飲みながら保健室を出た。


「トキツ先輩、待ってください。俺も行きます!」


 さらにそれを追って、ユウゴも姿を消した。

 その成り行きを、他の男たちが茫然と見つめるのだった。


「んじゃま、俺たちも行くか土井」

「ああ」


 固まった空気を溶かすように、松根が声をあげた。


「おら、解散すっぞ。
 溜まんなら時雨にしようぜ。そっちのが広ぇしよ」


 松根がパンパンと手を叩くと、皆息を吹き返したように動き出す。

 不満そうな表情を浮かべながらも、男たちは保健室を後にする。


「それじゃあね、遠藤ちゃん」


 最後に保健室を出る松根が、ペンを走らせる遠藤に声をかけた。


「おう。ま、今度は3、4人ずつで来いや。
 綾野にもそう言っとけ」

「ういっす」


 書類から目を離さずに言う遠藤に、松根はぺこっと頭を下げ保健室の扉を閉じた。



 

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