血とキズナ
第7章 ニセモノ
「あの、誰かに用っすか?」
声をかけると男ははっとした様子で佐山のほうを向いた。
身長は佐山より少し高いぐらいだった。
「お兄さん、前もここで待ってたっすよね。
あんま長居しないほうがいいっすよ。目ぇ付けられたら厄介だから」
いくら中身がヘタレといえど、佐山も見た目は不良以外の何者でもない。
脱色しすぎた白髪に、Yシャツの裾は出しっぱ。
ボタンは全て開け放たれ、中は黒地に髑髏が描かれたTシャツ。
首元にはシルバーアクセサリーを下げ、指にもゴツいリングをいくつかはめている。
スラックスは腰パンだ。
出で立ちだけは気合いの入っている佐山だったが、そんな彼を見ても、この男は畏怖や困惑の表情は見せず、ふわっと自然な笑顔を佐山に向ける。
「ありがとう。でも会いたい人がいるんだ」
男はまた寮を見上げた。
「ケータイとか連絡すればいいんじゃ」
「何度もしてるんだけど出てくれなくて」
「だから待ち伏せしてんすか」
彼は含み笑いをしながら「うん、待ち伏せ」と頷いた。
嫌味のない笑顔だ。
決して目を引かれるような顔立ちではないのだが、見ているほうが辟易するほどの爽やかさと清潔感。
捻くれきった連中しかいないところにいる者にとって、こんな人は新鮮だ。
「なんて名前っすか?」
佐山は男から視線を外し、門にもたれかかった。
「1年の綾野リツっていうんだけど」
佐山は思わず吹き出した。
「え、リツっすか!?」
「うん、知ってるかい?」
「知ってるも何も同じクラスだし、つかルームメイトだし」
「本当? すごいラッキーだな。
僕はリツの兄の綾野流星です」
彼の内ポケットから、白い名刺が差し出された。
「アニキ!?」
佐山は名刺を受け取るのも忘れ、素っ頓狂な声を上げた。