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血とキズナ

第7章 ニセモノ

 ワンテンポ遅れて名刺を確認すると、そこには『綾野流星』という文字が確かに書いてある。

 全く気がつかなかった。
 彼の姿に、リツと似た要素が全く見当たらなかった。

 リツはきれいな黒髪で、癖のないまっすぐな髪だけど、彼は光の当たり具合で茶色に見えるところもあるし、毛先が跳ねている。

 顔つきだって、リツはどちらかというとはっきりした顔立ちだ。
 目はきりっとしていて視線がはっきりしているし、眉も形が整っていて眼光の強さを際立てる感じだ。

 輪郭もシャープで、男の割には顎のラインが細い。

 しかしこの兄は、全てが逆だ。

 目も輪郭も丸くくりっとしていて、眉なんて困り眉みたいに少し下がっている。

 本当に同じ親から生まれた兄弟か? と思った拍子に、リツの言っていたことを思い出した。


「お兄さんて、義理の――」

「うん、全然似てないだろ?」


 頭に手をやって笑う綾野兄。

 その脳天気な笑顔は少し似ていた。


「それで、えっと――」

「あ、俺佐山です」

「佐山くん。
 僕リツと会いたいんだけど、ここで待っててもどうも会えなくて。
 リツが捕まりそうな時間とかわかんないかな」

「あー、アイツの行動統一性ないからなぁ」


 予想通りとでもいうように、兄は「やっぱり」と肩を落とした。

 不思議な雰囲気で、どんな奴の懐にでも入っていってしまうリツが、あれほどムキになってシカトし続ける兄貴とは、どんな人なのだろうと、佐山はずっと思っていた。

 しかしその姿は、まったく想像できずにいた。

 そんな兄が、目の前の彼とは意外でしかなかった。

 真面目そうで、血が繋がっていなくともリツのことを心配し、その優しい表情に偽善は見られない。

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