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血とキズナ

第7章 ニセモノ

 良い兄貴を絵に描いたような青年だった。
 そんな彼を、リツが無視する理由がわからない。


「でもアイツ、日曜と水曜以外は夜の10時までバイトしてるから、その時間にバイト先に行けば会えると思いますよ」


 複雑な家庭環境に育ったリツだ。
 見るからに怪しい男だったら、佐山も情報を流したりしなかった。

 父親が酒飲みで、その暴力から逃げるように離婚し、母子家庭となった佐山家だ。

 簡単に情報を流したら大変になることは、経験上わかっている。

 でも彼から危険な香りはしない。

 彼とリツは会っても大丈夫だと直感し、佐山はリツの居場所を教えた。

 佐山の情報に、綾野流星は目を丸くした。


「え、じゃあ今日もバイトに?」

「ああ、行ってるよ」

「えっと、そのバイト先って、教えてくれるかな?」

「いっすよ」


 申し訳なさげに聞いてきた流星に、佐山は口答でリツのバイト先であるコンビニを教えた。

 それを、流星は慣れた手つきでメモ帳を取り出し、ペンを走らせた。


「ありがとう佐山くん。何かお礼しなきゃね」

「え、いいっすよそんなのっ」


 佐山はブンブンと手を振った。
 そんな佐山の反応に、流星はくすっと笑う。


「そうだね。そんなこと言われても困るよね。ごめん」


 佐山が「いえ」と呟くと、流星は持っていたバッグを持ち直した。


「じゃあ、本当にありがとう佐山くん。
 いろいろ迷惑かけると思うけど、リツのことよろしくね」

「――ハイ」


 あのトラブルメーカー気質、もう少しどうにかならないもんですかね――という言葉を言いかけて飲みこんだ。

 流星は早急に駅へ向かって歩いていった。






 

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