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血とキズナ

第7章 ニセモノ

 
「待ってリツっ」


 流星が、動き出そうとするバイクに近寄ってくる。


「今日はもう帰るから、空いてる日にでも少し会えないか」


 縋りつくように掴んできた腕を、リツは乱暴に払いのけた。


「俺の言ったこと聞いてなかったのかよ。二度と会いたくないつったろ」

「リツ……」

「鴇津さん早く」


 鴇津がアクセルを開けると、流星の姿は後方へ遠ざかっていく。

 そんな兄を、リツが振り返ることはなかった。





   ◆ ◆





 昼休み。
 1年C組に行くことは、もはや日課となっている。

 今日も鴇津は例の如く、1年生の廊下を歩いていた。

 すると、


「チワッス!」


 顔も知らない下級生に頭を下げられた。
 面倒なので返事などしないのだが、一人が頭を下げると、まるでドミノ倒しのように次々と頭がペコペコと下がっていく。
 そこかしこから「ちわ」「ちわ」と声がかけられる。

 最近、こんな現象がよく起きる。

 鴇津が歩けば、誰もが道を空ける。
 それは昔からなのだが、挨拶をされるなど、今までの人生一度たりともなかった。

 どうでもいいことなのだが、鬱陶しいことこの上ない。
 鴇津は早々に嫌気がさしていた。

 目的地であるC組の窓から顔を覗かせる。
 その窓の一番近くがリツの席だった。
 鴇津と目が合った瞬間、リツはへらっと笑った。


「最近は鴇津さんが近くに来るとすぐわかるよね」

「あ?」


 人の顔を見ていきなり何を言うかと思えば。
 鴇津は窓に寄りかかる。

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