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血とキズナ

第7章 ニセモノ

 
「だって、みんなの挨拶がどんどん近づいてくるんだもん。
 待ってるこっちとしてはおもしろいよね」


 そう言ってリツは近くに立つユウゴに視線を送る。
 しかしユウゴは「ケッ」と顔を背けた。


「今更トキツさんに近づこうとしやがって……。オモシロくねぇ」


 ユウゴの言い分に、リツは「ははは」と失笑する。


「何の話だ」


 脈絡が見えず、鴇津は不機嫌そうにリツを見た。
 しかしリツはいつものようにへらっと、表情は変わらない。


「鴇津さん最近雰囲気が柔らかいから、みんなこれを機に近づこうと必死なんだよ」


 リツの言葉に、鴇津は目を丸くする。
 そんな自覚はなかった。
 むしろリツに会うときは、リツにペースを持っていかれないよう気を張っていたつもりだ。
 それが、周りにそんな風に見られているとは、気に食わなかった。

 人が寄ってくる人間など、鴇津の一番嫌いな人種だった。

 人が寄ってくる人間というのは、ナメられている証拠だからだ。

 人からどれだけ恐れられるかが、人間の真価。
 寄ってきた連中をなぎ倒すことこそ、自分の存在価値。

 世界には、自分という味方と、他人という敵しか存在しなかった。
 なのに今の現状は、鴇津が困惑するに充分すぎる環境になっていた。

 敵じゃない他人ができてしまった。

 リツは、今まで自分が当てはめてきた『敵』とは少し様相が違う。

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