
血とキズナ
第7章 ニセモノ
「久しぶり、センセー」
リツが保健室の扉を開けた。
「おう、うるせぇのが来たな」
最近の状況変化により、逃げたり隠れたりする必要なくなってきたリツだが、定期的に保健室へ訪れていた。
どこへ行っても騒々しい霧金の中で、保健室は別世界のように平穏な空気が流れている。
鴇津たちはいつものように、ベッドの周りで昼食を広げた。
「トキツさん、どうぞ」
鴇津がパイプに座るや、ユウゴがベッドの上にオニギリやパンを差し出した。
頼んでいるわけではないのだが、鴇津の昼食を買うのが、ユウゴの仕事のようになっている。
食べ物だけでなく、飲み物までが数種類用意された。
まるで忠犬のように慕ってくるユウゴが、鴇津は鬱陶しくてならなかった。
中1で鴇津の施設にやってきたユウゴは、余所者、下級生ということで、服の下が痣で埋まるほど暴行を受けて続けていた。
教員が生徒を殴り、その生徒がさらに格下の生徒を殴るという腐りきった環境で、ユウゴは全ての暴力の最終到着地だった。
教員。施設。
上級生。下級生。
そんなものに鴇津は物心ついたときから、憎悪を抱き続けていた。
そんな世界、ぶっ壊してやりたくて、鴇津はナイフを手に取ったのだ。
ユウゴを助けたわけじゃない。
そんな世界を認めたくなかっただけだ。
強い者だけが生き残っていく世界。
そして強いものは、真理だ。
あんなものが生き残れる世界なんて認めない。
利己的で理不尽な世界など、消え去るということを証明したかった。
だからユウゴに慕われる謂われなど、なかったのだ。
しかし最近は、ユウゴを煙たがること自体が面倒に思えてきていた。
別にくっつかれたからといって、問題になるわけでもない。
前ほど、鬱陶しいと思わなくなっていた。
鴇津はユウゴの買ってきた昼食たちに手を伸ばす。
