テキストサイズ

血とキズナ

第7章 ニセモノ

 そんなぬくぬく生きてきた奴が、なぜこんなにも自分をかき乱すことができるのか、それが不思議でしかたなかったのだ。

 でもそうじゃない。

 リツも、家族がいない。
 両親がいなかったり、友人を亡くしていたり。

 最初から誰もいない自分とはまた違うが、リツにも鴇津にも、違いなんてなかった。

 それは鴇津にとって、リツに対する答えであった。
 だがそれと同時に、新たな疑問でもあった。

 そんな境遇で、なぜへらへら笑っていられるのか、それがわからなかった。

 リツはどんな人生を送ってきて、どんな感覚を持っているのか。
 それが知りたかった。

 どうして兄を嫌っているのか。
 親がいないとはどういうことか。

 どんな子どもだったのか。
 どこで、どんな風に育ったのか。
 小学生。中学生。
 どんな風に過ごしてきたのか。

 人の過去や、内側を知りたいと思ったのは初めてだった。

 他人なんて所詮は、叩きのめす敵か、関わらなくていい人間かだけだったから。

 リツが、親がいないと言ったとき、鴇津は適当な相づちぐらいしか打てなかった。

 リツも、自分と同じ人種であるという衝撃を受けたからか、言葉が何も出てこなかった。

 だが今になっても、リツに聞きたいことの一つも聞けていない。
 聞き方がわからないのだ。

 人に、関わってきたことがなかったから。

 鴇津は佐山とリツの会話に、耳を傾けることしかできなかった。


「そもそも、なんでそんなにあの人のこと毛嫌いしてんだよ。めちゃめちゃ良い人そうじゃんか」


 佐山が紙パックにストローを刺しながら、リツに言う。

 今度はリツがため息をついた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ