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血とキズナ

第7章 ニセモノ

 
「そうだな。あの人はめちゃめちゃ良い人だよ」

「じゃあなんでそんなに嫌ってんのさ」

「別に、嫌いじゃねー」

「じゃあ! なんで会わないんだよっ」


 じれったいリツの反応に、佐山の口調が強くなる。


「まあ、良い人だからかな」


 リツは何ともいえない顔でそう言った。
 いつものへらへらした顔ではなく、かといって深刻そうな顔でもなく、ただ淡々と、教科書の音読のような、熱のこもらない声色だった。


「なんだよそれ。意味わかんねぇな」

「あの人が俺を気にすんのは、責任と罪悪感からだけだよ。
 そんなんで兄貴面されたってうぜえだけだ」

「そうなの?」

「そうだよ」

「なんでそう思うんだ」

「そうだからだよ。他に理由なんかねぇよ」


 リツの声色が、だんだんと怒気をはらんでいった。

 表情も角張り、怒っていることがはっきりとわかる。


「ふぅん。まあいいけどさ、話ぐらい聞いてやったら?」

「ヤだよ。めんどい」


 佐山は相づちをうって、会話を切り止めた。
 リツも不機嫌そうにオニギリに食らいついている。

 2人の不仲のせいで、最近は空気が悪い。

 そんな居心地の悪さに敏感だったのは、意外にもユウゴだった。


「ったくウゼェな! 何日も何日も拗ねてんじゃねぇよ!」

「だから、別に拗ねてねーって」

「ウゼェ! てめぇマジウゼェ!」


 ユウゴはリツに掴みかかり、リツも抵抗する。

 がしゃがしゃとベッドを揺らしていると、遠藤の鉄拳が2人の脳天に落っこちた。


「テメェらは保健室を破壊する気か」


 結局、リツに関する話題は逸れ、それ以上の事情を鴇津が知ることはなかった。





   ◆ ◆



 

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