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血とキズナ

第7章 ニセモノ

 





 その日の夜。
 9時半。
 鴇津は寮の駐輪場にいた。

 しかし駐輪場とは名ばかりで、止めてあるのはバイクばかり。

 派手な改造、装飾を施された二輪車で埋め尽くされている。
 その中から、比較的にスタンダードなフォルムの、紫鳳幹部仕様である黒い単車を引っ張り出した。

 この時間帯はリツの迎えと、これも日課となっていた。

 正門を出て、ヘルメットを被る。
 そんなあたりまえの習慣も、リツの送迎をやり始めてから身についたものだった。

 鴇津にとってバイクは、今まではストレス解消法の一つでしかなかった。

 イライラしているときや、無性に何かを持て余しているとき、車が少ない夜の街に飛び出して、アクセル全開でかっ飛ばした。

 エンジンの回転する音。
 あっという間に流れていく世界。
 止まっている空気を切り裂いていくような疾走感。

 そしてそれらを、極限まで拡張させた欲望の塊が改造車だ。

 それらを全身で享受したい者にとって、ヘルメットはただの枷でしかなかった。

 しかし今の鉄塊は、そんなパワーを潜めている。

 人を乗せる足となったバイクに、そんな荒ぶる力はいらない。

 警察に捕まったら面倒だ。

 だから鴇津は、今日もヘルメットを被る。


「あの――」


 フルフェイスのヘルメットで顔が隠れたとき、聞き覚えのある声に呼ばれた。

 この数日で聞き馴染んだ声だが、鴇津に向かって発せられたのは初めてだった。

 そこにいたのはリツの兄、流星であった。

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