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血とキズナ

第7章 ニセモノ

 しかしお金を下ろすだけにしては遅いと思い始め、水が半分ほどなくなった頃、ドアベルの音が鳴った。

 ぱっと顔を上げると、入ってきた男は予想外の人物だった。

 リツを案内した店員が、同様に優しげな笑顔でその男に接客し、一言二言話すと、男性客の視線がリツのそれとぶつかった。
 眼鏡の奥の瞳が、嬉しそうに輝いている。

 彼はまっすぐとリツのほうにやってきて、あろうことか当たり前のようにリツの前に座ったのだ。


「久しぶり、やっと会えた」

「帰れよ。そこは、アンタの席じゃねぇよ」


 仕事が休みである今日。
 流星はスーツ姿ではなく、チノパンにカーディガンを羽織っている。

 今年23の歳を迎える男としては、かなり地味な服装だ。

 若いくせに、スーツのほうが様になっている。


「少しぐらい、いいだろ?」

「マジでダメだから。連れがいるんだよ」


 彼が、なぜここにいるのかはわからない。
 家だって遠いし、会社がこの近くなわけでもない。

 こんな運命の再会など、微塵もうれしくないが、こんなことになった理由は、それ以外にない。

 しかしリツは、流星の台詞に言葉を失った。


「その連れって、鴇津くんだろ?」

「――は?」


 思わぬ人物の出現に、フリーズするリツ。

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