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血とキズナ

第7章 ニセモノ

「実は、この前寮に行ったとき、鴇津くんに会ってね、お願いしたんだ。
 リツと引き合わせてくれないか、って」

「なんだよ、それ」


 この男には、こういう所があった。

 人畜無害。気弱な優男。

 それを絵に描いたような風貌のくせに、実はとても我が強く、我が儘で頑固。

 目的や目標ができたら、それ目掛けてまっしぐら。

 ちゃっかりとあくどい事や、反則ギリギリのことをやったりする。

 そして、それに悪意がまるでないのだから、タチが悪い。


「なに人の連れ巻き込んでんだよ。フザケんのもいい加減にしろ」


 たまらず、店内中に響き渡るほど、リツは拳をテーブルに打ちつけた。

 そんな兄が、リツは大嫌いだった。

 平気な顔で、ズカズカと人の領域に踏み込んでくる。

 リツがどんなに酷いことをしても、それは変わらない。

 ムカつくほど変わらない。

 鈍感なのか打たれ強いのか。どちらにしても、リツにとってはこの世で一番鬱陶しい人物だ。

 リツは勢いよく立ち上がった。

 その場を立ち去ろうとする。

 しかし流星は、通り過ぎようとしたリツの腕をとっさに掴んだ。


「待ってリツっ」

「触んな!」


 リツはその手を容赦なく振りほどく。

 しかし流星も負けじと立ち上がり、リツの退路を塞いだ。

 狭い店内である。
 席と席の間は、流星が立てばもう隙間はない。

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