血とキズナ
第7章 ニセモノ
「どうってことないよ。いつもと同じ。ムカついて終わった」
冷めかけているポテトを、リツは我が物顔で再度摘む。
「いつ会ったの? あの人と」
「今週の初め頃に、ちょっとな」
そんなリツには何も言わず、鴇津はじっと窓の外を眺めていた。
「なんで協力したの?」
鴇津は視線を窓から動かさず言った。
「別に。でなきゃ、一生付きまとわれそうだったからな」
「でも、わざわざ芝居みたいなことしてさ。らしくないよね。
鴇津さんなら、力ずくでもつれてこられるのに」
鴇津の言葉が詰まる。
「鴇津さんに、アイツ鬱陶しいから会ってこいって言われたら、俺、会いに来てたよ。
こんな周りくどいことしなくてもさ」
鴇津は何も言わず、コーヒーばかりを口にする。
そんなこと聞かなくても、リツにはわかっていた。
「俺のこと心配してくれたから、こんならしくないことしてくれたんでしょ? ありがとう」
必死で守ってきたはずの“自分らしさ”を捨てて、鴇津が自分を心配してくれた。
それが鴇津にとって、どれだけ大きな事だったか、リツにはわかる。
うれしくて、リツの顔から笑みがこぼれた。
それは普段のへらついた笑顔でも、友達とするバカ笑いとも違う。
その笑顔に、鴇津のチンケな虚栄心はあっという間に取っ払われた。