テキストサイズ

血とキズナ

第8章 レース

 鞄を肩にかけ、人気のなくなった寮を出た。
 寮から学校までは、10分ほどで着く。

 鴇津はイヤホンを装着し、ゆっくりと学校へ向かった。

 もうすぐ5月も終わるというだけあって、昼間はブレザーを着ていると暑さを感じる。

 桜はとっくに散って葉が茂り、ほかの植物たちも蒼さを際立たせ始めた。

 そんなもの、今まで気にしたこともなかったが、急にそんなものにまで目がいくようになった。

 何を見ても、何もかも同じ色だった世界が、劇的に色彩を持ち始めた。

 アスファルトが暑い。
 光がまぶしい。
 風が気持ちいい。

 まるで、今まで時間が止まっていたかのように、鴇津の周囲が急激に瞬きだした。

 そんな世界が、鴇津は嫌ではなかった。
 これが、彼のくれた世界なら、心地好さすら感じる。

 鴇津が音楽プレイヤーをいじっていると、音楽の向こうから、人の声が聞こえた気がした。

 顔を上げると、学ランを来た男が4人、鴇津の行く手を塞ぐように立っていた。

 何か言っているようだが、よく聞こえない。
 鴇津は仕方なくイヤホンを外した。


「なんか言ったか」


 鴇津の態度に、男は眉をひくりと動かす。


「おぅおぅ、言ってくれんじゃねぇの。
 ケツの穴のちっちゃくなっちゃったトキツくんがよ」

「あ?」


 鴇津の眉間にシワが寄る。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ