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血とキズナ

第8章 レース

 
「最近俺ら南高から逃げ回ってんじゃん。
 ウワサにビビってんだろ」

「ウワサ?」


 鴇津には身に覚えのない話である。

 確かに最近は、ケンカをするのも面倒になってきて、こういう輩のいる所には近寄らないようにしていた。

 売られたケンカはどうしたって買ってしまうから、売られないようにしていたのだ。

 だがそれが“逃げ”と見なされるのはムカつく。


「なんだか知らねえが、俺がテメエらなんぞにビビるわけねえだろ。
 ――相手してやる。来いよ」


 鴇津は、鞄を地面に落とした。
 それが合図となり、4人の男が、一斉に飛びかかってくる。

 勝負は10秒でついた。

 一人一発ずつで彼らを沈めると、息を上げることもなく、鴇津は鞄を背負い直した。

 沈んだ男たちは声を上げることもできず、熱されたアスファルトに頬をすりつけた。

 ストレス解消法だったケンカが、今ではストレスのタネだ。

 特に、こんな雑魚とのケンカなんて、なんの意味もない。

 リツの言っていた言葉が、頭に浮かぶ。

 ――あんたが、ケガをするだけの価値があるのか。

 この言葉の真意は、未だにわからない。
 しかし時折出てきては、鴇津の思考を支配する言葉だ。

 ただわかることは、これからはたぶん、乱闘になるほどのケンカには首を突っ込まないであろうということだ。




 

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