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血とキズナ

第8章 レース

 


 教室に入ると、ちょうど4限目が始まったところだった。

 教壇に立つ教師を素通りすると「あいさつぐらいしなさい」という、建前上の注意を受けるた。

 鴇津は、窓際の席に座った。

 自分の席に50分間座っていることすらできない連中しかいない教室で、まともな授業が行われるわけもなかった。

 霧金の教室は、常に騒然としている。
 そんな喧騒が鬱陶しくて、鴇津が教室にいることは少なかった。

 しかし最近はそんな教室にも、大人しく通っている。
 だが授業はやはり退屈だ。

 音楽で時間を潰し、ふと窓の外を眺めた。

 外には狭い校庭が広がり、そこに知った顔がいた。

 5月も下旬だというのに、上下ジャージ姿で、他の数人とスタートラインについている。

 腰を落としてクラウチングスタートの体勢をとり、合図とともに走り出した。

 鴇津は、その速さに驚く。

 他の連中に圧倒的な差を付けて、リツはゴールラインを抜けていった。

 せいぜい100メートルの中で、2位との差は10メートルほどありそうだ。

 不意打ちな才能に、目を釘づけにしていると、そんな強い視線が通じたのか、リツが不意に鴇津のほうを見上げた。

 凝視していたことに気づかれギクリと身を震わす鴇津だが、リツのほうはいつもどおりの能天気な笑顔を浮かべ手を振ってくる。

 鴇津が軽く手を挙げ返すと、リツは満足したように佐山やユウゴの待つ所へ駆けていった。

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