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血とキズナ

第8章 レース

 鴇津は屋上に出た途端、内ポケットから煙草を取り出し火をつけた。

 おだやかな風にのって、紫煙が宙を舞う。

 このところ、煙草の量が減った。

 少し前は、常に煙草を口に入れてなければ落ち着かなかったのに、最近では1日で一箱がなくならない。

 鴇津は煙草をくわえながら、貯水タンクへ続くはしごを上った。


「お、鴇津か」


 上った先のさらに上、貯水タンクの上に、東条があぐらをかいていた。

 一人になりたくて屋上に来た鴇津は舌打ちをしつつも、貯水タンクの横へ座った。


「聞いたか? 南高のウワサ」

「それがどうした」


 空を仰ぎながら、鴇津は答える。


「リツのお守り頼むぞ。わかってると思うが、あいつの世話係はお前に任せたんだからな」


 今の今まで忘れていた。
 元はといえば、鴇津がリツに近づいた最初のきっかけはそれだったのだ。

 東条が鴇津に面倒見を任せなければ、リツとの距離がこんなに縮むことはなかっただろう。


「もしリツのカギが取られたら、お前に責任とってもらうぞ」


 脅すような文句だが、東条の口調はのんびりしたもので、まるで世間話だ。

 そして紫鳳の名が地に落ちたとして、そんな責任など誰もとれやしないだろう。

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