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血とキズナ

第8章 レース

「無難でいくなら松根だが、それじゃあ面白みに欠けんだよな。
 アイツはそつなくこなしそうだからよ」


 その意見には鴇津も納得だ。

 一番間違いのない選択だが、あまりに無難すぎる。

 しかし、それ以外に選択肢が見つからないのも事実だった。


「実は、もう一人推してるやつがいるんだ」


 東条の言葉に、鴇津は思わずタンクを仰ぎ見る。
 視線が合わさった。
 東条がにやりと笑う。


「リツなら、面白いことになりそうじゃねえか?」


 鴇津は絶句した。
 まさかリツの名が上がるとは思ってもみなかった。

 しかし上がってみればそれは決して意外ではなく、東条の中では大正解であるような気がした。

 しかし――


「やるわけねえだろ、あいつが」

 リツが紫鳳の総長になる図など、まったく想像がつかなかった。


「そういう奴にやらせるから面白いんじゃねえか」


 東条が得意気に言う。

 リツは、どう考えても族の頭になるような奴ではない。

 しかし、彼が人の上に立ったら――と考えると、少し気持ちが高揚する。

 今まで誰も見つけられなかった新境地を、あっさりと開拓しそうな、未知の期待値を持った奴だ。

 東条が期待する気持ちはよくわかる。
 しかしそれは、絶対にないことだろう。

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