
血とキズナ
第8章 レース
「でもまあ――」
そう言うとともに、東条はタンクから跳んだ。
身軽な体は、鴇津の正面に降り立つ。
「お前かリツが、紫鳳を継いでくれるだろうよ」
鴇津にそう言い残し、東条はさら下へ飛び降りた。
「なんでそう言い切れる」
下に目をやり問いかけると、東条はうっすらと笑った。
「俺がそうしたいからだ」
東条は校舎へ戻る扉を開らき、姿を消した。
「あ」
しかし東条は漏らした声とともに、再び扉が開いた。
「明日、時雨で集会やっから、お前も来い」
「は? 急になんだよ」
紫鳳のメンツであってそうでない鴇津に、東条が集会をどうのという事を言ってきたことはなかった。
「いいから、今回は来い。いいな、絶対だ」
言うだけ言って返事も聞かず、東条は今度こそ戻っていった。
屋上に静寂が戻ってきたが、鴇津の胸中の喧騒は収まらなかった。
今回の集会は、十中八九南高についてのことだろうが、東条があれほどムキになるほどヤバいことなのだろうか。
あっという間に短くなっていた二本目の煙草を、鴇津は目一杯肺へと送り込んだ。
煙草は一気に灰へと変わる。
そして大量の呼出煙を口から漏らしながら、鴇津は尻ポケットから携帯を引っ張り出す。
時間を見るため液晶の電源を入れると、メールを一件受信していた。
鴇津にとってそれは、二度見してしまうほどの出来事である。
しかし数少ないアドレス帳に載る人物で、メールなんて馴れ馴れしいことをしてくる人物など、鴇津には一人しか思い浮かばない。
開いてみれば案の定、“リツ”の名が表示された。
(鴇津さんは何の授業?)
なんの内容もないメールに、ため息をつく。
自分を取り巻くトラブルに気づく気配もないリツに、鴇津はため息をついた。
