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血とキズナ

第8章 レース

 でも、いざ話してみたら、まるで体中に巻き付いていた冷たい鎖が外されたようだった。

 開放的で、暖かくて、小さいものに怒りや恨みを抱くのが馬鹿馬鹿しくなった。

 同情されるのが嫌で話さなかった。
 自分はふつうじゃないと思いたくなかった。

 でも、本当は聞いてほしかったのだ。

 暗いところをそっとしておくのではなくて、そこに飛び込んできてほしかった。

 リツは、そんな深いところに最初から突っ込んできた。

 暗いところを持たない“ふつう”の人間が、気安く入ってくるんじゃねえ――と、最初はムカついたが、彼にも、暗いところはあった。

 しかしそれをまったく感じさせない彼の振る舞いに、鴇津は完敗した。

 自分と変わらない暗いものを持っている同種の人間なのに、リツは鴇津とは真逆で、いつもへらへら笑いながら人とつるむ。
 それが信じられなかった。

 そんなリツに、鴇津は今までの自分をすべて打ち崩された。
 それだけではない。
 リツは鴇津の中に、新しいものを次々に作り上げていく。

 黒しかなかった鴇津の深いところに、いろんな色をばらまいていく。

 リツは、鴇津の根っこをすべて知った。

 そんな相手がいることが、これほど憩えるものだとは思わなかった。

 彼の前では、強がらなくても、気を張らなくてもいい。

 無理をしてきたつもりはないが、開放感を覚えたと同時に――いや、だからこそ、熱のない鎖に雁字搦めだったことに気づく。

 押し込めていたものでなければ、開放なんてありえない。

 携帯が震えた。
 

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