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血とキズナ

第8章 レース




 ガチャンと、屋上の扉が開く。

 4時間目終了のチャイムが鳴って10分程たたころ、制服に着替えなおしたリツが屋上に現れた。

「鴇津さん」

 そう言うと、リツは鴇津の前にやってきて、腰を落とした。

「トキツさん、これ昼飯っす」

 リツと一緒にやってきたユウゴは、鴇津への供え物を差し出す。

 鴇津は軽く礼を言い、目の前のリツを見た。

 その体つきは成長期真っ只中で、背は高いが厚みやごつさが少ない。

 ただが食べる量は果てしなく、菓子パン5つにおにぎりとサンドイッチが3つずつだ。

く同じ成長期である鴇津だが、リツほどは食べない。

リツがその中のパンを一つ持ちながら伸びをした。

「やっぱり屋上って気持ちーなー」

 リツの黒髪がさらさらと風になびく。
 鴇津はそれを見ながら、ユウゴの持ってきたおにぎりに、手を出した。

「佐山はどうしんだ」

 リツとセットのようにいつもいる佐山が、今日はいない。
 リツがパンを一口かじった。

「なんか、気まずいからやめとくって。よくわかんないけど」

「ああ……」

 リツとばかり関わっているから麻痺するが、佐山というやつの感覚が一番ふつうなのだ。

 だれが楽しくて、鴇津なんかと昼飯を食べようとするの。
 なんの感情も持ち合わせず壁も作らず、鴇津と並ぶやつなど誰もいなかった。

 ユウゴは飽きもせず後ろをついてきたが、決して横には並ばない。

 なんの損得も見返りもなく、女のようにべたべたと一緒にいるわけでもなく、ただ時間が重なったとき、並んで同じ時をすごす。

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